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電子計算機室 分子研リポート2003 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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研究系及び研究施設の現状 223

電子計算機室

岡 崎   進(教授)

A -1)専門領域:計算化学、理論化学、計算機シミュレーション

A -2)研究課題:

a) 溶液中における溶質分子振動量子動力学の計算機シミュレーション b)量子液体とその中での溶媒和に関する理論的研究

c) タンパク質の機械的一分子操作の計算機シミュレーション d)水溶液中における溶質分子の平均力とメモリー解析 f) 超臨界流体の構造と動力学

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 分子振動緩和など,溶液中における溶質の状態間遷移を含む量子動力学を取り扱うことのできる計算機シミュレー ション手法の開発を進めている。これまですでに,調和振動子浴近似に従った経路積分影響汎関数理論に基づいた 方法論や,注目している溶質の量子系に対しては時間依存のシュレディンガー方程式を解きながらも溶媒の自由度 に対しては古典的なニュートンの運動方程式を仮定する量子−古典混合系近似に従った方法論を展開してきてい るが,これらにより,溶液中における量子系の非断熱な時間発展を一定の近似の下で解析することが可能となった。 特に前者の方法では個々の多フォノン過程を分割して定量的に表すことができ,これに基づいてエネルギーの溶媒 自由度への散逸経路や溶媒の量子効果などを明らかにしてきた。また後者の方法では個々の溶媒分子の運動と溶質 量子系とのカップリングを時間に沿って観察することができ,液体に特徴的な緩和機構について解析してきている。 今年度は特に,分子の振動状態間コヒーレンスの消失の動力学について解析を開始した。

b)常流動ヘリウムや超流動ヘリウムなど量子液体の構造と動力学,そしてこれら量子液体中に溶質を導入した際の溶 媒和構造や動力学について,方法論の開発を含めて研究を進めてきている。前者については交換を考慮しない経路 積分モンテカルロ法や積分方程式論,そして経路積分セントロイド分子動力学法などを用いて解析を進め,ヘリウ ムの動的性質や溶媒和構造などを明らかにしてきている。一方,後者に対しては粒子の交換をあらわに考慮した上 で,溶液系の静的な性質の研究に適した形での経路積分ハイブリッドモンテカルロ法を提案しこれまでにすでに超 流動を実現し,不純物を含む溶液系への展開を進めてきている。

c) 非接触型原子間力顕微鏡のカンチレバーの機構を利用して試みられつつあるタンパク質の機械的延伸実験に対応 した分子動力学シミュレーションを行っている。これにより,延伸実験で測定される力のプロフィールの分子論的 な意味を明らかにするとともに,水中でのタンパク質のコンホメーション変化に際しての自由エネルギープロ フィールを得ることができるが,これまでにポリアラニン,ポリグルタミン酸のα-ヘリックスとβ-ストランド間の 転移について解析を進めている。

d)ミセルや二重層膜に代表されるような水溶液中における溶質分子の集団的な自発的構造形成に対するシミュレー ション手法を確立することを目的として,溶質分子にかかる平均力やメモリーについての解析を行っている。特に 前者については,水中での自由エネルギー解析に対応し,充分な精度を得るために大規模計算を行っている。同時に,

(2)

224 研究系及び研究施設の現状

溶質分子がとる構造の安定性が,おかれた環境にどのように依存するかについての検討も行っている。その典型的 な例として,真空中と水中,そして生体膜中などにおいてポリペプチドがとる構造の安定性の変化について計算を 進めている。

e) 超臨界流体は温度や圧力を制御することによって溶質の溶解度を可変とすることができ,物質の分離抽出のための 溶媒として注目される一方で,超臨界水などは安全で効率のよい化学反応溶媒としても興味を集めている。この超 臨界流体の示す構造と動力学について大規模系に対する分子動力学シミュレーションを実施し,臨界タンパク光の 発生に対応する強い小角散乱や臨界減速などを良好に再現した上で,流体中に生成されるクラスターの構造と動力 学について詳細な検討を行ってきている。そこでは,流体系においても液滴モデルがよく成り立つことやクラスター のフラクタル性,パーコレーション等について実証的に検証してきた。特にクラスターの生成消滅の動力学につい ては,従来のイジングモデル等ではほとんど議論することのできなかったところであるが,本研究における一連の シミュレーションによりその特徴を明らかにすることができた。一方で,溶解度に大きな関係を持つ水の誘電率に ついても,常温常圧から亜臨界,超臨界状態にわたって水の分極を取り入れた分子モデルに基づいて分子論的な立 場から検討した。

B -1) 学術論文

T. MIKAMI and S. OKAZAKI, “An Analysis of Molecular Origin of Vibrational Energy Transfer from Solute to Solvent Based upon Path Integral Influence Functional Theory,” J. Chem. Phys. 119, 4790–4797 (2003).

B -3) 総説、著書

岡崎 進 , 「シミュレーション化学」, 化学便覧応用化学編 , 丸善 , 515–517 (2003).

岡崎 進 , 「ナノ力学の分子動力学シミュレーション」, 「バイオ高分子のナノ力学理論」, 原子分子のナノ力学 , 森田清三 編著 , 丸善 , 65–73, 189–193 (2003).

B -4) 招待講演

岡崎 進 , 「A F Mカンチレバーを用いたタンパク質1分子操作の計算機シミュレーション」, 触媒学会 , 徳島 , 2003年 9月 . S. OKAZAKI, “A molecular dynamics study of Vibrational energy relaxation of a solute in liquid and supercritical fluid,” Bunsen Discussion, Tutzing, September 2003.

S. OKAZAKI, “Simulation study of molecular process of solute Vibrational relaxation in the condensed phase,” Ohtaki Symposium, Kusatsu, October 2003.

B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

分子シミュレーション研究会幹事 (1998- ). 日本学術振興会第 139委員会委員 (2000- ).

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研究系及び研究施設の現状 225 B -8) 他大学での講義、客員

東京大学教養学部 , 「熱力学 B 」, 1998年 4 月 - .

新潟大学大学院自然科学研究科 , 大学院特別講義「分極モデルを用いた水および超臨界水の計算機シミュレーション」, 2003年 7月 23日 -24 日 .

東北大学大学院理学研究科 , 大学院特別講義「分子シミュレーションの基礎」, 2003年 7月 10-11 日 .

C ) 研究活動の課題と展望

溶液のような多自由度系において,量子化された系の動力学を計算機シミュレーションの手法に基づいて解析していくため には,少なくとも現時点においては何らかの形で新たな方法論の開発が要求される。これまでに振動緩和や量子液体につ いての研究を進めてきたが,これらに対しては,方法論の確立へ向けて一層の努力を続けるとともに,すでに確立してきた手 法の精度レベルで解析可能な現象や物質系に対して具体的に計算を広げていくことも重要であると考えている。また,電子 状態緩和や電子移動反応への展開も興味深い。

一方で,超臨界流体や生体系のように,古典系ではあるが複雑であり,また巨大で時定数の長い系に対しては計算の高速 化が重要となる。これには,方法論そのものの提案として実現していく美しい方向に加えて,グリッドコンピューティングなど 計算アルゴリズムの改良やさらには現実の計算機資源に対する利用効率の高度化にいたるまで様々なレベルでのステップ アップが求められる。このため,複雑な系に対する計算の実現へ向けた現実的で幅広い努力が必要であるとも考えている。

参照

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